第72章 狂気の目覚め<参>
「禰豆子。煉獄さん――あたし達と一緒にいた大人の男の人を知らない?なんかこう、目がギョロっとしたこんな感じの・・・」
汐は自分の目を指で押し上げながら禰豆子に尋ねたその瞬間。突然後方車両が激しく揺れた。
また鬼が暴れ出したのかと思い身構えると、突然前方の扉が肉片ごと吹き飛び、赤い何かが飛び込んできた。その反動で汐は吹き飛び転んでしまうが、痛がる暇もなく耳をつんざくような大声が汐の耳を穿った。
「大海原少女!!無事か!!」
「誰かさんのせいで背中と耳が痛いけどね!」
腹立たしげに言うと、煉獄は「誰の事かはわからんが無事のようだな!」と大声で言った。
「ここに来るまでの間にかなり細かく斬撃を入れてきた。鬼もすぐに再生はできまいが、余裕がない。手短に話す」
煉獄は汐を立たせると、迫りくる肉片を切り伏せながら凛とした声で言った。
「この列車は八両編成だ。俺が後方五両を守るから、黄色い少年と竈門妹とで、前の三両を守るんだ!」
煉獄の言葉に汐は肯定の返事をしようと口を開いたとき、煉獄が来た方から強い鬼の気配を感じた。
ひょっとしたら鬼の本体がそこにいるかもしれない。汐は首を横に振り、煉獄の眼を見て言った。
「待って煉獄さん。この先から強い鬼の気配がする。ひょっとしたら鬼の本体はそこにいるのかもしれない」
「なんと!先ほどはそんな気配は感じなかったが・・・君が言うならそうなのだろう。相わかった。俺は前方にいる竈門少年や猪頭少年にこのことを伝えに行く。すぐに戻るから待っていてくれ!」
いうが早いか煉獄はすさまじい速度で車両を貫く様に移動する。そのあまりの速さに汐は呆然とするが、迫ってくる肉片を片付けつつ次の車両へ向かった。