第72章 狂気の目覚め<参>
「禰豆子!善逸!煉獄さん!!」
扉をけ破って中に入ると、既にそこも同じように肉片があふれ、その中で禰豆子は一人戦っていた。
鋭い爪で引き裂き、強靭な脚力で蹴りつぶしながら、禰豆子は襲い来る肉片から人を守らんと必死に体を動かしていた。
「禰豆子!!」
汐が叫ぶように名を呼ぶと、禰豆子は安堵した表情で振り返る。だが、その瞬間。禰豆子の左腕に鬼の肉片が絡みついた。
引きはがそうと禰豆子が右腕を振り上げるが、その腕にも肉片が絡みつき、両腕を拘束した。
「このっ!!禰豆子を放せ!!」
汐が刀を構えて突っ込もうとすると、天井から肉片がぼたりと落ち、汐の首に巻き付いた。
(しまっ・・・!)
そのまま肉片は汐の首を締め付け、ギリギリと巻き上げていく。それを見た禰豆子が目を見開くが、彼女の両足にも肉片が絡みつき完全に拘束されてしまった。
「ヴーーーーッ!!」
禰豆子が首を絞められる汐を見て、唸り声をあげた。自身の両腕も締め付けられ痛みが走り、思わず目を閉じたその時だった。
――雷の呼吸――
壱ノ型─霹靂一閃・六連!!!
金色の閃光が目にもとまらぬ速さで動き回り、禰豆子と汐を拘束している肉片を弾き飛ばした。
禰豆子は両腕が解放され、汐も首の周りの肉片が吹き飛び体が自由になった。
咳き込みながら目を開けると、そこには目を閉じ刀を構えた善逸が、雨が降るような呼吸音を響かせながら立っていた。
「禰豆子ちゃんは俺が守る」
その勇ましい姿に禰豆子と汐は呆然と彼を見つめるが、鼻提灯が割れるとフガフガとみっともない呼吸音に変わった。
それを見た禰豆子は目を点にさせ、汐は「肝心なところで決まらないのね」と呆れたように呟いた。
(っていうか、あたしは眼中にないのかこの野郎。まあいいけど)
思わず蹴り飛ばしたくなったが、何はともあれこれで炭治郎、伊之助、善逸の三人が戦える状態になった。後は煉獄だけだが、姿は見えない。