第72章 狂気の目覚め<参>
汐と炭治郎が鬼を追って客車を出た数分後。
「はっ!」
煉獄は目をかっと見開き体を起こした。先ほどまでいた自宅とは異なり、目の前の景色に少しばかり面食らう。
だが、彼は瞬時に先ほどまでの光景が夢であったと理解すると、あたりを見回し今現在の状況を確認した。
すると小さな少女が燃え滓のようなものをもって自分を見上げているのが目に入った。
少女の名は竈門禰豆子。竈門炭治郎の実妹で、悲運にも鬼に変えられてしまった少女。
しかし鬼であるが人を襲わず守ることができる優しき鬼――と、炭治郎と汐は訴えていたが、煉獄は初めそれを信じることができなかった。
鬼は人を喰らい、傷つけるもの。それは絶対に変わらない。そう信じていたからこそ、煉獄は鬼を庇う炭治郎と汐を処分するべきだと思っていた。
しかし二人の心は嘘偽りなく、そして禰豆子自身も人を喰らうことを拒絶した瞬間を煉獄も目撃していたからこそ、少しだけ信じてみようと思う気持ちになったのだ。
禰豆子は心配そうな目で煉獄を見つめていた。そして彼女の持っている燃え滓をよく見ると、切符のようでありそこから微かだが鬼の気配がした。
「君が俺を目覚めさせてくれたのか?」
煉獄が問いかけると、禰豆子はそうだといわんばかりにうなずく。そして煉獄がもう一度あたりを見回すと、人数が少しばかり足りないことに気づいた。
「大海原少女と竈門少年。それから猪頭少年の姿がないな。もしや鬼を見つけたのか」
煉獄が立ち上がった瞬間、異変を感じて振り返った。客室の壁や床から肉のようなものが盛り上がり、乗客たちを取り込もうと蠢きだしていたのだ。
「うたた寝してる間にこんな事態になっていようとは!!よもや、よもやだ!!柱として不甲斐なし!!穴があったら入りたい!!」
煉獄は瞬時に刀をとると、肉片に向かって刀を構えながら砲弾のように突っ込んだ。