第71章 狂気の目覚め<弐>
(死んでない!?確かに首を斬ったのに・・・まさかこいつ・・・こいつ・・・!)
「嗚呼素敵だねその顔。そういう顔を見たかったんだよ。うふふふ・・・。頸を斬ったのに、どうして死なないのか教えて欲しいよね?」いいよ、俺は今、気分が高揚してるから、赤ん坊でも分かる単純な事さ、うふふっ」
「まさかもう・・・こいつは本体じゃなくなっている・・・そういうこと?」
汐の言葉に、魘夢は「ご名答」と心からうれしそうに笑いながら言った。
「頭の形をしているだけで頭じゃない。君達がすやすやと眠ってる間に、俺はこの汽車と“融合”した!」
炭治郎は目を見開き、汐は苦々しげに表情を歪ませる二人を嘲笑うかのように魘夢はつづけた。
「この列車の全てが俺の血であり、肉であり、骨となった。うふふっ、いいねその顔、分かってきたかな?つまり、この汽車の乗客二百人余りが、俺の体をさらに強化するための餌、そして人質。ねぇ、守りきれる?君達だけで。この汽車の端から端まで、うじゃうじゃとしてる人間たち全てを――」
――俺に“おあずけ”させられるかな?
「糞がっ!」
汐はすぐさま魘夢に斬りかかるが、彼はそのまま沈むようにその場から姿を消した。
(どうする・・・どうする!?俺と汐で守るのは四両が限界だ。それ以上の安全は、保障ができない・・・!)
「煉獄さん、善逸、伊之助ーーっ!寝てる場合じゃない!!起きてくれ、頼む!!禰豆子ーーッ!!眠ってる人たちを守るんだ!!」
炭治郎の切羽詰まった声が辺りに木霊し、闇に吸い込まれていく。しかし、汐の青い目が、あるものを認識し笑みを浮かべた。
「絶望するには早いわ炭治郎。どうやら、寝坊助共がやっと起きたようよ」
汐が言い終わるのと同時に、遠くから獣のような雄たけびが凄まじい速さでこちらに近づいてきた。
「ついて来やがれ子分共!!ウンガアアア!!」
──爆裂覚醒
「猪突、猛進!!伊之助様のお通りじゃアアア!!」
天井を突き破るようにして飛び出してきたのは、猪の皮をかぶった勇ましい鬼狩り、嘴平伊之助だった。