第71章 狂気の目覚め<弐>
――ウタカタ・参ノ旋律――
――束縛歌!!!
汐の歌が魘夢を完全に拘束し、血鬼術を放つ手の口も縫い付けられたように動かなくなる。そんな彼に向かうのは、憤怒に満ちた二つの刃。
魘夢は二人の心を壊そうと、二人に対して一番辛い悪夢を見せていた。
『なんで助けてくれなかったの?』
『俺たちが殺された時、何してたんだよ』
『自分だけ生き残って』
『何のためにお前がいるんだ、役立たず』
『アンタが死ねば良かったのに。よくも、のうのうと生きてられるわね』
炭治郎は家族に責められるというもの。そして汐は
『不快な匂いだ。お前の本性がよくわかったよ。この性悪』
『君の音は聞いていて不愉快だ。二度と近寄らないでくれ』
『気持ち悪ィ面見せるんじゃねえよ弱味噌が』
仲間たちに罵倒されるというもの。しかし、その悪夢自体が、二人の怒りを煽るには十分すぎる効果を得た。
特に汐は、炭治郎の美しい眼を負の感情で濁らせたことに、怒りは頂点を超えた。
「あたしの仲間が、炭治郎が、そんなことを言うわけねぇだろうが!よくも、よくも炭治郎に、あんな糞みたいな眼をさせやがったなこの野郎!!」
「言うはずないだろう、そんなことを。俺の家族が!!」
(こいつら・・・!)
「俺の家族を」
「あたしの仲間を」
「「「侮辱するなァアアアア!!」」
二本の刃が魘夢の首を同時に穿ち、列車の動きに合わせて後方へ飛ぶ。が、二人は奇妙な違和感を感じた。
(手ごたえが、ない?まさか、これも夢?)
(それともこの鬼は、那田蜘蛛山の彼より弱かった?)
「なるほどねぇ・・・あの方が“柱”に加えて“耳飾りの君と青髪の君”を殺せって言った気持ち、凄くよく分かったよ。存在自体がなんかこう、癪に障って来る感じ」
ねっとりとした声で話す魘夢の姿を見て、二人は思わず顔を引き攣らせた。斬ったはずの彼の頸から、肉のようなものが生えていた。