第9章 慈しみと殺意の間<参>
「あたしね、鬼もそうだけど何よりも自分が一番憎らしかった。守りたい人たちがいたから鍛えてきたのに、何も守れなかったし、誰も救えなかった。でも、鬼と戦っているときは、すべてを忘れられた。憎んでいる間は、何も考えなくて済んだから」
でもね、とさらに汐は続けた。
「ここにきてからそれが本当に正しいのかわからなくなった。そしてあの子、禰豆子をみて、あんたのことを聞いて、どうしようもなく悔しくなった。おやっさん・・・あたしの育ての親は鬼になって倒されたのに、鬼であるあの子がなんで生きているのかって」
言葉が紡がれるほどに、汐の声に苦しさが増していく。そんな彼女を見ている炭治郎の胸が、張り裂けそうに痛み出した。
「だけど、あんたの眼を見た瞬間、自分がすごく醜くて浅ましくて、おぞましくなった。あんたたちが悪いわけじゃないのに、何をお門違いしているんだって。そうおもったら・・・」
「もういい。もうこれ以上は言わなくてもいい・・・」
血を吐くような言葉に耐え切れず、炭治郎は汐の言葉を遮った。あまりにも痛々しく、あまりにも悲しい。これ以上は汐が壊れてしまうような気がしたからだ。
「ごめん、こんな話聞かせて。だけど、炭治郎はすごいね。あたしは鬼になったおやっさんを人間に戻そうなんて考えつきもしなかった。鬼は人を襲うから、斬らなきゃいけない、殺さなくてはいけないってずっと思ってた。諦めていた。だけど、あんたは違う。妹を、禰豆子を必ず人間に戻す。その覚悟が、その眼にはある」
炭治郎の眼の中に宿る覚悟を、汐は薄々感じていた。だからこそ、許せなかった。覚悟を持つことができなかった自分を。
しかし、炭治郎はそんな汐の言葉に首を横に振った。