第71章 狂気の目覚め<弐>
「・・・くっ・・・」
――あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!
汐は口元を思い切りゆがませたかと思うと、突然高らかに笑いだした。目を見開き、天を仰ぎながら笑う彼女の声は、まごうことなき狂気が宿っていた。
その姿に炭治郎はおろか魘夢まで目を見開き表情を固まらせ、豹変した汐をただ黙って見つめていた。
「あはははっ、はははっ、はは。何を言い出すかと思えばそんなこと。あたしの心が醜く狂ってる?人間ですらない?あんたなんかに言われなくても、んなこと、最初からわかってんのよ。鬼を殺したいという思いはずっと消えないし、今この瞬間も、お前を殺したくて殺したくて仕方がない!!頸を斬るだけじゃ生ぬるい。全身ズタズタに掻っ捌いて、薄汚ねぇ臓物ぶちまけてみじめったらしくくたばるお前を眺めたくてたまらない
!!」
でもね。と、汐は狂気に満ちた表情を抑えるように顔を伏せると、ゆっくりと歯切れのいい声で言った。
「こんなどうしようもないあたしでも、仲間だといってくれた連中がいる。あたしに居場所をくれた連中がいる。そいつらはね、あたしが道を踏み外そうとすればきっと殺してでもあたしを止めてくれる。そんな気のいい連中に生きているうちに出会えて、あたしは幸せ者よ。だからこそ、あたしはあんたみたいなみじめな存在になるなんざまっぴらごめんってわけ。わかる?ああ、頭に黴が生えまくった脳味噌じゃわからないか」
汐はふんと鼻を鳴らして言い放つと、魘夢の表情が微かに歪んだ。炭治郎は汐がいつもの汐であることに安堵し、同時に彼女の心を揺さぶったことに対して、激しい怒りを魘夢に向けた。