第71章 狂気の目覚め<弐>
時間は少しだけさかのぼり・・・
魘夢は、送り込んだ者達が誰も精神の核を破壊できていないことに怪訝な表情を浮かべた。
今までも多少てこずったことはあったものの、これほどまで時間がかかったことは今までなかった。
それ程今回の鬼狩りが強いのか、将又選んだものが弱かったのか。しかし彼にとってそんなことはどうでもよかった。
――時間稼ぎができているから
魘夢はそう思うと、暗闇に向かって仰ぎ目を閉じた。一人、なかなか面白い心を持つ鬼狩りを見つけたのだ。
二面性のある人間は、これまでの中でもごまんといた。が、その者はそんな生易しいものではなく、文字通り心の中に【怪物】を飼っていた。
鬼である自分を震え、歓喜させるようなおぞましいものを持つ人間。いや、それを人間と呼ぶことすらためらうほどのもの。
(すごいなぁこの子。人間であることがもったいない。これほどまでにすごいものは見たことがないよ。鬼ですら、ここまで立派なものを持った奴を俺は見たことがない。嗚呼この子が絶望し、壊れたらどんなに素晴らしいものが見られるだろう・・・)
今まで人間に興味などなかった彼が、これほどまでに気になる人間を見つけたことに彼自身も驚いていた。
もしも万が一覚醒し、出会うことがあれば、どうしてやろうか。どうやって絶望し、断末魔の悲鳴を上げさせてやろうか。
――どうやって心をずたずたにしてやろうか。
そんなことを考えながら口元を歪ませていると、不意に背後に気配を感じた。
身体を突き刺すような程の怒りと殺気。それを感じた魘夢は、獲物が向こうからやってきた嬉しさを隠す様子もなく、ゆっくりと振り返った。