第69章 無限列車<肆>
「あ、しまった!飲み水がそろそろなくなりそう」
汐は瓶の中を覗き込みながら眉をひそめた。村のはずれに飲み水のための井戸があるのだが、夜になると周辺が真っ暗になってしまうため日の出ているうちに水をくまなければならない。
幸いまだ日は高く、水を汲んで戻っても問題はなさそうだ。
「おやっさん。あたしちょっと水を汲んでくるから大人しく待っててよ」
「なんだよ。それじゃあまるで俺が言うことを聞かねえ餓鬼みてえじゃねえかよ」
口をとがらせて不貞腐れる玄海を見て、汐は苦笑しながら家を出た。手には水くみ用の桶をもって。
村の外れに行くと、少し古いがそれなりの大きさの井戸がある。汐は備え付けの釣瓶を井戸に投げ入れ、水を汲もうとした。ところが、いくら縄を引っ張っても桶が上がってこない。
「おかしいわね。どこかで引っ掛かってんのかしら」
汐はいったん縄から手を離すと、顔をしかめながら井戸を覗き込んだ。その瞬間。
『いつまでこんなまやかしに踊らされている!!さっさと起きろ愚図!!』
鋭い声と共に腕を強く引かれ、汐の体は井戸の中に引きずり込まれた。水音と共に、冷たい水の感触を肌に感じる。
目を開けるとそこには、少し古風な着物を身に纏った、顔に布をかぶった小さな子供が自分をじっと見つめていた。