第69章 無限列車<肆>
最初に目についたのは、壁や床全てから生えたように立ち並ぶの血の付いた刃。そしてそこに突き刺さっていたのは、いくつもの肉片のようなものだった。
そしてその間からは、何本もの手が何かを掴むように蠢いている。
呪いの言葉がそこら中から響き渡り、時折聴こえてくるのは、幼い少女の泣き声のようなもの。
そして少年の視線の先には、人の形をしたものが、こちらを見つめていてその手には緑と黒の市松模様の切れ端が――
「うわあああああああああああああああああああああ!!!!」
少年は扉の前から弾かれるように離れ、番人はすぐさま扉を閉め鍵をかけた。そして荒い息をつき、顔中から汗を拭き出す少年を見据える。
『どうやら、お前には耐えられなかったみたいだな』
番人は淡々と少年の背中に言葉を投げかけ、冷たい視線を布越しに浴びせる。少年は息を整えようと胸に手を当てながら、ゆっくりを顔を上げた。
「な、な、な、なんなんだよあれ・・・地獄なんてもんじゃない・・・。い、いや。人間の世界じゃない・・・あんなところに精神の核があるのか・・・?あんなところに、行かなきゃならないのか・・・?」
その表情は絶望と恐れと絶望に染まり切っており、先ほどの覚悟は完全にそぎ落とされたようだ。だが、番人が放った次の言葉に、彼は戦慄した。
『精神の核ならあの中にはないぞ』
「・・・な・・・に・・・?お前・・・騙したのか?」
『騙すとは?そもそも私は、お前に扉の先を見せるとは言ったが、あの中に精神の核があるとは一言も言っていない。お前が勝手に勘違いをしたんだろう』
その言葉に再び少年の心に怒りが宿り、手にした錐を番人に向かって振り上げた。
しかし、その切っ先が届く前に、少年の足首に海藻が巻き付きそれを阻止する。何とか拘束から逃れようと身をよじる少年に、番人は悲しげな声で語りだした。