第69章 無限列車<肆>
炭治郎は一人、雪の降る山の中を歩いていた。見覚えのある景色、見覚えのある道。そして、見覚えのある家。
――そして、見間違うはずのない弟、茂と、妹、花子。
「あ、兄ちゃんおかえり!」
「炭売れた?」
二人は炭治郎とよく似た、透き通った眼を彼に向けて笑いながら言った。炭治郎はすぐさま駆け寄り、そのまま茂と花子を強く強く抱きしめた。
「ごめん、ごめん、ごめんな・・・」
二人を抱きしめ嗚咽を漏らしながら、炭治郎は何度も何度も謝罪の言葉を紡ぎ、二人はわけがわからず呆然と泣きじゃくる兄を見つめる。
「に、兄ちゃんどうしたの?お腹でも痛いの?」
「とにかくうちに帰ろう。みんな待ってるよ」
茂と花子の言葉に、炭治郎は小さく肩を震わせると、顔を上げて二人の顔を見つめた。
(そうだ。家にはみんなが待っているんだ)
炭治郎は涙をぬぐうと、二人に驚かせたことを謝り、二人の手を取った。手のぬくもりに沸き上がる幸せを、彼はしみじみと嚙み締める。
そのせいだろうか。彼の耳には、どこからか聞こえてきた歌声が届くことはなかった・・・