第69章 無限列車<肆>
夜空を切り裂く様に走る列車から、小さな歌声が聞こえる。ねっとりとした含みのある歌声が、風に乗って流れてくる。
――ねんねんころり。こんころり。息も忘れてこんころり――
――鬼が来ようとねんころり。腹の中でもねんころり――
「うふふ、楽しそうだね。幸せそうな夢を見始めたな・・・深い眠りだ。もう、目覚めることは出来ないよ・・・」
そう言ってほほ笑みながら、下弦の壱、【魘夢(えんむ)】は、汐達が深い眠りに入ったことを感じた。
だが、
――ねんねんころり。ねんころり。ころりとおちるはなんのおと――
「ん?」
何処からか別の歌声が聞こえたような気がして、彼は振り返った。しかしそこには墨を流したような闇が広がっているだけだ。
「気のせいかな。今、おかしな歌が聞こえた気がしたんだけれど・・・」
魘夢は少し首をかしげたが、さほど気にする様子もなく再び夜の闇に視線を向けた。きっと気のせいだろう。今頃人間たちは皆夢の中なのだから。
しかし、その時車内で起こっていることを彼は知る由もなかった。
小さく開かれた汐の口から、歌が零れだしていることに。