第69章 無限列車<肆>
煉獄が目を開けると、そこは見慣れた天井と見慣れた部屋。自分が生まれ育った家のある部屋だった。
(ん?俺は何をしに来た?そうだ、父上へ報告だ。柱になったことを・・・)
煉獄は一瞬だけ考えるが、すぐさまその目的を思い出し目の前に横たわる父に声をかけた。
しかし
「柱になったから何だ、くだらん」
その背中から発せられた冷たい言葉が、煉獄の耳と心を穿つ。
「どうでもいい。どうせ、大したものにはなれないんだ。お前も、俺も」
思っていた言葉は帰ってこず、煉獄はそのまま静かに部屋を後にする。すると、彼の進む先に自分によく似た顔立ちの少年が一人、ひょっこりと顔を出した。
「あ・・・兄上」
「千寿郎」
「父上は喜んでくれましたか?僕も、柱になったら、父上に認めてもらえるでしょうか?」
弟、千寿郎がおずおずと口を開くと、煉獄は言葉を詰まらせた。
彼等の父親は昔はああではなかった。鬼殺隊の柱にまで上り詰めた剣士だった。情熱のある男だった。
だが、ある日突然剣士をやめた。本当に突然だった。
――あんなにも熱心に俺たちを育ててくれていた人が、なぜ・・・。
(考えても仕方ないことは考えるな。千寿郎はもっと可哀想だろう。物心つく前に病死した母の記憶はほとんど無く、父はあの状態だ)
煉獄は視線を落とすと、千寿郎の肩にゆっくりと手を置いて真剣な表情で口を開いた。
「正直に言う。父上は喜んでくれなかった!どうでもいいとの事だ・・・」
その言葉に千寿郎は肩を落として俯くが、煉獄はそんな彼を励ますかのように声高らかに告げた。