第68章 無限列車<参>
(あれが本体か・・・)
汐の夢の中に入り込んだ少年は、家の中を覗いてその姿を確認する。
楽しそうに笑いながら父親と食卓を囲む彼女を見て、彼は顔をしかめた。父親からの理不尽な暴力によって消えない傷を心と体に追った彼は、親子という存在そのものを疎ましく思っていた。
だからこそ、楽しそうに笑う汐が理解できず、憎々しくてたまらなかった。
(くそっ、楽しそうに笑いやがって。俺だって、俺だってもっと・・・)
少年は憎しみを振り払うように頭を振ると、本来の目的の為に動いた。それは“夢の端”を見つけること。
眠り鬼、【魘夢(えんむ)】の見せる夢は無限に続いているわけではなく、夢を見ている者を中心に円形に広がっている。
その外側には無意識領域と呼ばれるものがあり、そこには“精神の核”が存在していて、これを破壊されると持ち主は廃人になる。
魘夢はこうして心を殺してから、肉体を殺すという方法で多くの人間を葬っていた。
(ここか。風景は続いているけれど進めない。見えない壁があるみたいだ)
少年は懐から錐のようなものを取り出し振りかぶると、その切っ先を壁へと突き刺した。確かな手ごたえを感じた彼は、そのまま一気に壁を引き裂く。
すると、
「うわっ!!!」
突然流れ込んできたすさまじい量の水が、彼を飲み込み押し流す。口の中に入ってきた水はとても塩辛く、海水であることが分かった。
少年は苦しそうにもがこうとするが、ふと違和感を感じて目を開く。そこは確かに水の中のはずなのに、陸にいる時と変わらないような呼吸ができるのだ。