第68章 無限列車<参>
(なんだ・・・これ・・・)
そんな彼の前を、色とりどりの魚が泳ぎすぎ、様々な色の海藻やサンゴ礁が日の光を浴びて虹色に光る。
眼前に広がる美しい海底に、少年は目を奪われ立ち尽くしていた。
(すげぇ。まるで別世界に来たみたいだ。こんな、こんなに綺麗な海なんてみたこと・・・)
――ねんねんころり、ねんころり。ころりとおちるはなんのおと――
少年がその美しい景色に呆然としていると、どこからか歌が聞こえてきた。それは幼い少女のような声で、海の底から聞こえてくるようだ。
彼が誘われるように目を移すと、海底に何かがあるのが見えた。
目を凝らしてよく見ると、それは一枚の扉のようだ。だが、その扉に違和感を感じる。
それもそのはず。その扉はいくつもの鎖や鍵で厳重に閉ざされたものであり、この風景に全く合っていない外観をしていたからだ。
それを見た少年は、自分が何のためにここに来たことを思い出し、その扉に向かって身を進めた。
不思議なことに海底には地面と同じように普通に立つことができ、彼は扉と向き合うと錐を持つ手に力を込めた。
(この海のどこにも精神の核は見当たらなかった。だとしたら、この扉の先に・・・)
しかし目の前の扉は一目でわかるほど、禍々しい気配を放っていた。いくつもの鍵と鎖がこの扉を開けてはいけないことを警告する。
(知ったことか。さっさとこいつの精神の核を壊して、俺も幸せな夢を見せてもらうんだ!)
少年は決意を胸に抱いて扉に手をかけようとした、その時だった。
『お前は誰だ。ここで何をしている?』
背後から声をかけられ、少年は大きく肩を震わせた。反射的に振り返るとそこには、日本神話に出てきそうな古風な薄青い着物を身に纏い、布で顔を隠した4,5歳ほどの子供が一人立っていた。