第68章 無限列車<参>
籠を抱えて、汐は走った。自分が育った家、思い出のたくさん詰まった小さな家。そして、自分を育ててくれた、誰よりも大好きな――
「おやっさん!!!」
家の扉を突き破るような勢いで、汐は家の中に転がり込んだ。台所と食卓と棚、それから寝床があるだけの殺風景な部屋だった。
そしてその奥にある、簡素な寝床には――
「おー、帰ったか。ずいぶん遅かったなァ。俺ァ待ちくたびれたぜ」
白髪交じりの髪の毛に、厳つい顔。見た目だけで言ってしまえば、目があった子供か確実に泣き出すような風貌をしている男、大海原玄海がゆっくりと体を起こしてこちらを見ていた。
「おや・・・っ・・・さん・・・」
その姿を見た瞬間、汐の目から再び滝のように涙があふれ、ぽろぽろと零れて床にシミを作っていく。
そんな汐に玄海は怪訝そうな表情になり、どうしたと声をかけようとしたその時だった。
「おやっさああああん!!!」
汐はそのまま玄海の首に飛びつき、強く強く抱きしめた。硬い筋肉質の体に、あの時は嫌だった彼独特の匂いすら、今の汐にはうれしくてたまらないものだった。
「うわああああん!!!おやっさん!おやっさん!!おやっさん!!!」
玄海を抱きしめながら泣き叫ぶ汐に、玄海はわけがわからずぽかんとする。が、すぐさま彼女の背中と頭を優しくなでた。
「よく帰って来たな、汐。おかえり」
その優しい声に、汐の泣き声がさらに大きくなる。何があったのか、どうしたのか。彼は何も聞くことなくただただ、汐の体を抱きしめているのだった。