第67章 無限列車<弐>
「切符・・・拝見・・・いたします」
列車の奥から制服に身を包んだ一人の駅員が、か細い声でそう言いながら歩いてきた。薬のお陰か少しだけ気分が回復した汐が体を起こし、あれは何だと煉獄に尋ねた。
「むっ、大海原少女。気が付いたか。あれは車掌さん。切符を確認して切り込みを入れてくれるんだ!」
煉獄の言った通り、車掌は喚く善逸や騒ぐ伊之助から切符を受け取ると、専用の機器でぱちぱちと音を立てながら切符を切っていく。
だが、彼が切符を切った瞬間。汐は微かだが妙な気配を感じた。
(なに・・・今の気配・・・本当に微かだけど・・・鬼のような気配が・・・)
「拝見しました・・・」
そう言う車掌の顔は病人の様に青白く、とても仕事ができそうな状態ではない。もしかして彼も自分と同じ列車に酔ったのかと思い、汐は声をかけようとした。
だが、煉獄はそんな汐の肩にそっと手を置くと「動くな」と小さく告げた。
汐がびくりと震えると、煉獄は刀を手にしてすぐさま立ち上がり、車掌を庇うように立った。
「車掌さん、危険だから下がっててくれ!火急のことゆえ、帯刀は不問にして頂きたい」
そう告げる彼の眼前には、顔がいくつも連なったような醜悪な姿の鬼が一匹。這うようにしてこちらを見ていた。
その異形の姿にあちこちから悲鳴が上がる。しかし煉獄は臆さず、静かに刀を抜きはらった。
「その巨躯隠していたのは血鬼術か!!気配も探りづらかった。しかし・・・」
――罪なき人に牙を剥こうものならば、この煉獄の赫き炎刀が、お前の骨まで焼き尽くす!!」
鬼が口を開き、耳を塞ぎたくなるような雄たけびを上げた。真っ青な顔で動けない炭治郎と善逸。しかし
炎の呼吸・壱ノ型 不知火!!
煉獄の身体が轟音を上げながら動き、瞬時に鬼の頸を斬り飛ばす。鬼は断末魔の叫びをあげることなく、灰となって消え去った。