第66章 無限列車<壱>
善逸が戻ってくるまで、汐は伊之助を見張りつつ、思っていたことを口にした。
「ねえ、炭治郎。禰豆子を連れてきてよかったの?」
「え?」
「鬼殺隊本部に預けてもらったら、危険な目に遭ったりしなかったんじゃないのって思って」
そう言う汐からは、心配している匂いがした。汐が禰豆子のことを本気で心配しているのはわかってた。
けれど炭治郎は首を横に振り、これでいいと言った。
「俺たちはもう何があっても離れたりはしない。どこへ行くときも一緒だ」
「・・・そう、だったわね。ごめんね、野暮なこと聞いて」
「いいや、汐は禰豆子のことを思って言ってくれたんだろう?お前が禰豆子を大切に思ってくれている。それだけで俺はうれしいんだ」
炭治郎はそう言って汐の手をそっと握ると、小さくありがとうと告げる。その手の温かさに、汐の顔に熱が籠った。
その時、汽車が大きな汽笛を鳴らし出発の合図をする。
「ちょっと!出発するんじゃない!?善逸は何やってんのよ!?」
「まずい!二人とも列車に飛び乗るんだ!ほら、伊之助!!」
炭治郎に促されて汐と伊之助は走り出す。すると、後ろの方からすごい速さで走ってくる善逸の姿が見えた。
「炭治郎!汐ちゃん!伊之助!!」
「善逸!!早く!!こっちよ!!」
涙目になりながら走ってくる善逸の手を、汐はしっかりとつかみ動き出す列車に引き上げた。
列車は常軌を上げながら、漆黒の夜を切り裂くように進む。その速さに伊之助は興奮し、汐は顔にかかる風の心地よさに目を輝かせた。
しかし、この時の四人は知る由もなかった。
この列車に、既に大きな脅威が巣食っていることに・・・