第66章 無限列車<壱>
「はい。口を開けてゆっくりと声を出してくださいね」
しのぶの診察室で汐は言われたとおりに口を開けて声を出す。それを見てからしのぶは小さくうなずいた。
「特に問題はなさそうですね。お見送りはできませんが、これからも頑張ってくださいね」
「うん、わかったわ。いろいろ面倒を見てくれてありがとう。精いっぱい頑張るわね!」
しのぶの言葉に汐は笑顔で返事をすると、部屋を出ようとした。
「あ、汐さん。出かける前にこれをどうぞ」
そう言ってしのぶは汐に小さな袋を手渡した。汐は怪訝そうな顔をしながら袋を開けると、そこには粉薬のようなものが入っていた。
「喉の薬です。ウタカタを使うあなたに必要になると思いまして」
しのぶの言う通り、汐の使うウタカタは喉に多大なる負担をかけるものだ。下手をしたら喉がつぶれてしまうこともないとは言い切れない。
それを危惧した彼女が特別に調合してくれたものだった。
「わあ、何から何まで本当にありがとう」
「いいえ、どういたしまして。さあ、任務まであまり時間がありませんよ」
しのぶの言葉に汐ははっとした表情をすると慌てて部屋を出た。