第65章 幕間その肆:???
「やあやあ。みんなここにいたのかい?なかなか面白い見世物だったねぇ」
何処からか現れた青年の鬼に、皆は瞬時に表情をゆがめると目を逸らした。青年の鬼は「ありゃ?」と目を丸くするも特に気にするそぶりもなく、近くにいた女の鬼に声をかけた。
「やあ堕姫ちゃん。相も変わらず寒そうな格好だねぇ。風邪を引いたりしないかい?」
堕姫と呼ばれた女の鬼は、不愉快そうに顔を歪めながら「気安く話しかけないでくれる?」とうんざりしたように言い放つ。
しかし青年の鬼はにこにことした笑みを浮かべながら、あたりをぐるりと見まわした。
「あ、そうだそうだ。皆に聴きたいことがあったんだよ。君たち、【ワダツミの子】って知ってるかい?」
青年の鬼がそう言うと、鬼たちは首を傾げたりうなずいたりと各々の反応を見せた。
「はあ?何それ。聞いたこともない。っていうか、アタシあんたと話すと疲れるから嫌なんだけど」
「怖ろしい怖ろしい・・・ああ・・・怖ろしい」
堕姫は興味がないと言いたげにそう言い、老人の鬼は答えることなくただただ震えている。
しかし壺の鬼は何かを思い出したかのように、目の位置にいある口を動かした。
「私が昔生まれ育った村で、噂程度だが聞いたことがある。なんでも、声に妙な力を持つ青髪の女だとか」
「ああ、やっぱり黒死牟殿の言っていたのとほとんど同じか。無惨様が妙にご執心なワダツミの子。少しだけ気になって来たかもしれないな」
そう言って青年の鬼は楽し気な笑みを浮かべるが、壺の鬼はそれを見て何とも言えない表情を浮かべた。
「ところで玉壺(ぎょっこ)。俺が預けておいた例の人形の様子はどうだい?」
青年の鬼は目を細めながら訪ねると、玉壺と呼ばれた鬼は一瞬だけ頭をびくりと震わせた。
「・・・なかなかのじゃじゃ馬のようで。しかし最近は慣れてきたのか少しばかり従順になって来たかと」
「そうか!それはよかった!何せ俺は人形に関してはからっきしだかね。お前がいてくれて本当に良かったよ」
青年の鬼は笑いながらひらひらと手を振るが、その動作に玉壺は身体の奥から不快なものが沸き上がってくるのを感じた。