第64章 幕間その肆:月夜の宴
「あれ?しのぶさん?」
部屋に戻ろうとする汐の前から歩いてきたしのぶを見て、汐は足を止めた。しのぶは汐を見て「まだ起きていたんですか」と言いたげな表情をしていた。
「アオイの手伝いをしていたら遅くなっちゃって。もう寝ようと思ってたの」
「そうですか。もう夜も遅いですから、夜更かしをしないで早く寝ることをお勧めしますよ」
そう言って笑うしのぶに、汐は少しだけ震えた。が、不意に思い出したように彼女は口を開く。
「ねえしのぶさん。カナヲってさ。もしかして自分で考えて行動することが苦手なの?」
汐の言葉にしのぶは目を見開き、「どうしてそう思いました?」と聞き返した。
「今まで見てきたときもそうだったけど、カナヲって誰かに言われてから動いているように見えたし、今日の宴会でもしのぶさんに言われたから飲み物を受け取ったように見えたから。違ってたらいいんだけど」
そう言って顔を伏せる汐に、しのぶはため息を一つつくと意を決したように口を開いた。
「お察しの通り、カナヲは自分から動くことがほとんどできません。昔、私と姉が初めて出会った時からカナヲは自分で考えて行動することができなかったのです」
しのぶはカナヲが自分で行動することができないことを危惧し姉に相談したところ、彼女はカナヲに銅貨を投げて決めることを提案したという。
銅貨と聞いて汐の脳裏に、銅貨をはじいているカナヲの姿がよみがえった。
(じゃああの時のあれは、あたしが弱いから話したくないんじゃなくて、あたしと話すか話さないかを決めていたってこと・・・?)
だとしたら自分は相当な誤解をしていたことになる。青ざめる汐に、しのぶは優しく声をかけた。