第64章 幕間その肆:月夜の宴
やがて宴もお開きになり、汐は満足げに腕を伸ばしながら歩いていた。あれほど楽しかった時間は久しぶりであり、心はまだ余韻に浸っていた。
特に料理は絶品で、伊之助は食べ過ぎて動けなくなるほどであり、呆れた炭治郎と善逸が引きずるようにして連れて行っていた。
「ん?」
汐が厨房の前を通ろうとしたとき、中から物音が聞こえた。好奇心に促されて覗くと、大量の食器を一人で洗うアオイの姿があった。
一人じゃ大変だろうと声をかけると、アオイはびくりと体を震わせ振り向いた。
「ごめん。脅かすつもりはなかったの」
「・・・何の御用ですか?」
アオイは相も変わらずきつい口調でそう言うが、汐は特に気にする様子もなく「手伝うわ」とだけ答えた。
「いえ、結構です。あなたはもう休んでください」
「こんな沢山の食器、あんた一人に任せてたら明日になっちゃうわよ。いいから手伝わせて」
汐は少しだけ悪戯っぽく笑ってから、アオイの制止を聞かず洗い終わった食器を片付け始める。アオイは眉根を寄せながら何か言いたげな表情をしていたが、黙々と作業をする汐にため息をついた。
「今日の料理、あんたが腕を振るって作ってくれたのよね。みんなおいしいおいしいって言ってくれてたわ。食べ過ぎて動けなくなった馬鹿もいたけど」
「・・・そうですか」
「それに、今までもあんたには世話になりっぱなしだったし、せめてものお礼がしたかったのよ。もっとも、あたしは医学とかからっきしだからこんなことしかできないけどね」
そう言って笑う汐に、アオイは背を向けると絞り出すような声で言った。
「お礼など結構です。私はあなたと違い戦うことはできませんから。鬼殺隊員のくせに」
先程とは違う雰囲気に、汐は思わず手を止めてアオイを見た。初めてアオイを見た時、隊服を着ていたことから彼女も鬼殺隊員であることはわかっていた。
しかし任務に行く様子もなく、鎹鴉もいないことから不思議に思ったものの、そう言う隊員もいるんだろうとしか汐は思わなかった。
「選別でも運良く生き残っただけで、そのあとは恐ろしくて戦いにいけなくなった腰抜けですから、私は」
そう言うアオイの声は微かに震えていて、悔しさがにじみ出ているのが感じ取れる。しかし汐はそんな雰囲気を消し飛ばすように声を上げた。