第64章 幕間その肆:月夜の宴
軽快な旋律と共に柔らかい声が辺りに響く。まるで小さなものが跳ねまわっているような可愛らしい歌に、全員の顔がほころぶ。
禰豆子に至っては歌に合わせて体を揺らし、それを見た善逸が顔を赤らめて見とれ、炭治郎はさりげなく二人の間に入って身体を揺らし、伊之助は食べることを忘れて聞き入っていた。
三人娘たちも汐の不思議な歌にうっとりと聞き入り、アオイは勿論カナヲまで無意識に足を揺らしている。これにはしのぶも目を見開き、改めてワダツミの子のすごさをひしひしと感じた。
やがて歌が終わると大きな拍手が巻き起こった。汐は少しはにかんだ笑顔で禰豆子のそばに座ると、三人娘たちが押し寄せるように汐のそばに近寄ってきた。
「素敵な歌でした!」と、なほがいい、「可愛らしい歌でした!」と、きよが言い、「楽しい気持ちになれました!」とすみが言った。
皆から絶賛されている汐を見て、善逸はふと浮かんだ疑問を口にした。
「そう言えば汐ちゃんっていろいろな歌を知ってるけど、どこで覚えてくるの?」
善逸の質問に全員がはっとした顔で汐を見た。今まで気が付かなかったが、汐はたくさんの歌を知っているがいったいどこで覚えてきたのか。
彼女が歌う歌は幻想的な響きをしたものが多く、とても誰かに教えてもらったものばかりとは思えない。
皆の眼差しに汐は少し困惑した表情を浮かべながら話し出した。
「故郷でみんなに教わった歌もあるけれど、最近は生活していてふと思いついた旋律をそのまま歌にしたりしてるのよ」
「え?それって即興で歌を作ってるってことか?」
「まあそうなるわね。現にさっき歌った歌は、裏山の小さな動物たちを見ていて思いついたものだし」
さらりと答える汐だが、皆は表情を固まらせたまま彼女を見ている。そして一部の者は(ワダツミの子って凄いな)と謎の感心を抱くのであった。