第64章 幕間その肆:月夜の宴
その時。部屋の隅に置いてあった炭治郎の箱から、禰豆子がのそのそと出てきた。禰豆子は人がたくさん集まっていることに少し驚いたのか、目を泳がせている。
「禰豆子!おはよう!」
汐が名前を呼ぶと、禰豆子の目が汐に向けられる。すると禰豆子に気づいた善逸が「禰豆子ちゃ~ん!!」と甘ったるい声を上げながら禰豆子に迫ろうとした。
汐は瞬時に動くと、善逸の腕を掴み華麗な背負い投げを決めた。
「痛い!何するんだよ汐ちゃん!」
「うるさい黙れ。禰豆子に近づくなウジ虫」
「ウジ虫!?童貞呼ばわりが収まったと思ったら今度は人間ですらない呼び方されんの俺!?あんまりじゃない!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す善逸をしり目に、汐は禰豆子を連れて炭治郎のそばに近寄った。
兄の姿を見た禰豆子は嬉しそうに寄り添い、それを見た汐を含めた全員の顔がほころんだ。
すると禰豆子は、突然汐の服を引っ張り何かを訴えるように見上げた。その表情を見て、汐は瞬時に察する。
禰豆子は汐の歌が聴きたいのだ。
「汐。禰豆子が歌を聴きたいみたいなんだ。歌ってくれないか?」
炭治郎の頼みに汐は頷いたが、少しだけ考えた。今は夜の帳が降りた時間帯。あまり大きな声を出す歌を歌えば近所迷惑になるだろう。
だが大切な人たちの願いは聞いてあげたい。汐は少しだけ悩んだ後、ある一つの歌を歌うことに決めた。
汐は立ち上がり、皆を見回すと息を吸いゆっくりと口を開いた。