第63章 幕間その肆:煉獄杏寿郎の驚愕
墨を流したような夜空に浮かぶ、白金色の月。その下には空と同じ色の海が広がり、その中心で岩に座り歌を奏でる、青く長い髪をした女性。
だが、それは本当に一瞬で、瞬きをすればそこは海ではなく山であり、女性の姿も汐に戻っていた。
今のはいったいなんだ?と、煉獄が考えようとしたとき、不意に歌が止まった。
汐は途中で歌を中断し、苦しそうに息をついた。やはり全集中をしながら歌を歌うのは辛いのか、呼吸が乱れている。
しかし彼女は諦めず、もう一度発生練習を開始する。それから少しずつ、声の高さや息づかいを調節し効率のよい呼吸の仕方を掴もうとしていた。
煉獄はそんな汐を見て口元に笑みを浮かべると、そっと音もなくその場を後にした。
あの歌の続きが聴けないのは残念だったが、もしもまた会うことがあればまた聴く機会があるだろう。
それに、何故かはわからないが、汐とはもう一度どこかで会えそうな気がする。そんな感覚が彼にはあった。
「あれ?今さっき誰かがいたような気がしたけど・・・気のせい、かな?」
煉獄が去った後、汐は誰かの気配を感じあたりを見回したが、そこには誰の姿もなく、ただ優しい風が木々を揺らす音が聞こえているだけだった。