第63章 幕間その肆:煉獄杏寿郎の驚愕
少し山を登ったところで煉獄は足を止めた。白い岩場の前で青い髪をなびかせながら声を出している汐の姿を見つけたからだ。
煉獄は彼女に声をかけようと一歩踏み出そうとしたとき、突如声が止まった。それと同時に彼の足も止まる。
一体どうしたのだろうかと怪訝そうな表情を浮かべた煉獄だったが、汐は目を閉じて大きく息を吸うとゆっくりと口を開いた。
その瞬間。世界が揺れたような衝撃が煉獄を穿った。全集中の呼吸をしているせいか、汐の口から出てきた旋律は、以前に披露したものとはまるで違っていた。
あの時は魂が浄化されるような不思議な感覚だったが、今の歌声はまるですべての命が目覚め、凛と首を立てるような感覚。
とても十代半ばの少女の歌唱力ではない。否、人間の為せる業ではないと煉獄は心から思った。
(これが、ワダツミの子の歌声・・・)
鬼舞辻無惨が怖れる、神の如き歌声を持つ青髪の少女。時代が大きく動くときには必ず現れていたという、謎多き存在。それがワダツミの子。
煉獄の身体の奥から何かがこみ上げ、体が熱を持つ。足は縫い付けられたように動かず、瞬きも息をすることも忘れ、ただただ汐の姿だけを見つめていた。
歌が佳境と思われる部分にに入った瞬間、煉獄は不思議なものを見た。