第63章 幕間その肆:煉獄杏寿郎の驚愕
「失礼する。胡蝶はいるか?」
蟲柱・胡蝶しのぶが構える蝶屋敷に、炎柱・煉獄杏寿郎が顔を出した。しのぶは少し驚いたように目を見開き、どうしたのか問いただす。
「傷薬が切れてしまってな。次の任務まで補充をしておきたい」
「それは構いませんが、どこか怪我をされたのなら私が診ましょうか?」
「いや、俺は怪我をしていない。任務中に出会った負傷者の手当てをしていたら薬が底をついてしまったんだ!」
困っているようで全く困っていないような笑顔に、しのぶは小さくため息をつくと「承りました」と答えた。
「用意しますので少々お待ちください」
「うむ!」
煉獄はそう言って用意された椅子に座ろうとした、その時だった。外から声のようなものが聞こえ、煉獄の耳に届いた。
「ん?外から何か聞こえる様だ」
煉獄はそう言って、窓から外へ顔を出した。声のようなものは裏山の方から聞こえてくる。
「大海原汐さんですよ。今、全集中・常中を覚えようとしているようで、ああして彼女独自の修行をしているようです」
「あの青い髪の少女か!」
煉獄は以前柱合裁判で、輝哉や柱達の前で歌を披露した汐を思い出し目を輝かせた。
あの時の身体が浄化されるような不思議な感覚がよみがえる。
「気になるならば様子をご覧になってはいかがですか?薬を処方するまで少々時間がかかりそうですので」
「む!いいのか?」
「はい。ですが、あまり彼女を驚かせないようにしてくださいね」
「心得た」
煉獄はそう言って屋敷を出ると、まるで誘われるように声が聞こえる裏山へ足を進めた。
何故かはわからないが、彼はあの日からあの光景が忘れられず、ぜひともまたあの歌を聴きたいと思っていた。
それが叶うかもしれないと思うと煉獄の心は、子供のように踊った。そうでなくとも、前に進もうとしている後輩を見ると自分自身も鼓舞されるため、決して無駄ではないだろう。