第62章 幕間その肆:我妻善逸の憂鬱
「善逸!!」
汗を流す善逸に、汐は笑顔で手ぬぐいを渡す。善逸は礼を言って手ぬぐいを受け取ると、顔の汗を拭いた。
「やったじゃない善逸!あんたってやっぱりすごいわ!カナヲをあんなに速く捕まえられるなんて。やればできる男ってあんたのことを言うのね」
「そんな、褒めすぎだよ。君の方がすごいよ。一番早くカナヲちゃんに勝ったんだもの」
そう言って目を伏せる善逸の背中を、汐は思い切り叩いた。悲鳴を上げて咳き込む彼に、汐は慌てて背中をさすった。
「あの、その。あの時はごめん、善逸」
「え?何のこと?」
「前にあんたのその・・・大事なところを蹴り上げちゃったから・・・謝っておきたくて」
顔を伏せてそう言う汐に、善逸は苦笑いを浮かべながら言った。
「いいよ、べつに。って言いたいけれど、あそこを蹴るのは本当に勘弁してくれ。君はわからないかもしれないけれど、あそこは男にとっては急所中の急所だからね」
「うん、肝に銘じるわ。だからあんたも、滅多なことを言うもんじゃないわよ」
「あれ?俺謝られてるよね?全然謝られている感じがしないけれど・・・」
なんとなく収集が付かなくなりそうだと察した善逸は、話題を変えようと口を開いた。
「ねえ汐ちゃん。前に君がワダツミの子の事を思い切って打ち明けてくれたことを覚えてる?汐ちゃんが炭治郎のことで悩む前にも、君からは悩んでいるような音が聞こえたんだ。でもそれが何なのかわからなくて、滅多なことを言って君を幻滅させたくもなかった。だからあの時、君がワダツミの子の事を打ち明けてくれて本当にうれしかったんだ。大事なことを話してくれたことが」
「・・・そうね。あたし信用していたようで心のどこかであんた達を怖がっていたの。炭治郎や禰豆子は受け入れてくれたけど、あんた達に受け入れられなかったらどうしようって。でもそうじゃなかった。むしろ、あんた達を信用できていなかった自分自身が馬鹿に見えたわ。だから、ありがとうね、善逸」