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【鬼滅の刃】ウタカタノ花

第62章 幕間その肆:我妻善逸の憂鬱


それはにわかには信じられない話だった。ワダツミの子。独特な波長の声を持ち、人や鬼に影響を与える青髪の女性。

かつては汐以外にも何人か存在し、その特殊な力故にある時は崇められ、ある時は迫害され、ある時は女故に欲望のはけ口にされ、力を悪用しようとする者たちもいたこと。
そのためワダツミの子の本能は、人の目から自信を逸らす特性を生み出し、自分が男に間違われるのはそのためだと汐は語った。

あまりにも常軌を逸脱した事に、善逸は呆然と汐を見つめた。だが、同時に初めて出会ったときに感じた感覚の正体を、今理解することができた。

彼女の声を初めて聴いたとき、この人は本当に人間なのかとすら思った。声を聞いているだけで不思議と心が動き、勇気すら沸いてくる。
自分の思い違いではないかと思ったが、今の話を聞いて納得した。

しかし汐の音には恐れと不安が見て取れた。自分の声のことを気味悪いだろうとさえ言った。確かに普通の人から汐を見れば、そう思われてしまうことはあるだろう。
嘗ての自分がそうだったように。

だからこそ善逸は首を横に振った。

「確かに人や鬼に影響を及ぼす声なんて普通じゃありえないんだろうけど、俺だって耳がよすぎて気味悪がられたことが何回もあるんだ。だから俺は君の声を気味悪いなんて思わないし、君が正しくその力を使うって信じてる」

「善逸・・・」

ほほ笑む善逸に、汐は恥ずかしいのか目を伏せる。そんな二人をほほえましく見る炭治郎。

伊之助は汐の話が理解できなかったのか善逸に説明を求めたが、簡単に説明をすると「別にお前が何者だろうが、俺には関係ねえからな。それよりもさっさとさっきの全集中なんとかを俺は早くやりてえんだよ!」と返ってきた。

あまりの言い草に呆れていると、伊之助はそのまま外に出て行こうとする。どこへ行くんだと言いながら彼を追いかけると、汐が二人を呼び止めた。

「ありがとう」

汐の心からの言葉と笑顔に、二人の心臓が跳ね上がる。思わずくらりと傾きそうになった善逸だが、自分には禰豆子という心に決めた女の子が居るんだと呟く。

しかしそれでも、少しでも汐の心を軽くすることができたと思うと、嬉しさを感じずにはいられなかった。
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