第62章 幕間その肆:我妻善逸の憂鬱
呆れかえる汐と、人外の生き物を見るような表情をする善逸と伊之助。そんな彼らを見かねたのか、しのぶは炭治郎の背後から彼に触れながら近づいた。
顔を微かに赤らめる炭治郎をみて、汐は思いっきり顔を引き攣らせる。その音の恐ろしさに、善逸は思わず顔を青くした。
「まあまあ、これは基本の技というか初歩的な技術なので出来て当然煉獄の身体の奥から何かがこみ上げ、体が熱を持つ。足は縫い付けられたように動かず、瞬きも息をすることも忘れ、、会得するには相当な努力が必要ですよね」
しのぶはそう言うと、伊之助の下に歩み寄りその肩に手を置いた。
「まぁ、できて当然ですけれども。伊之助君なら簡単かと思っていたのですが、出来ないんですかぁ?できて当然ですけれど、仕方ないです。できないなら。しょうがない、しょうがない」
彼女はそう言って何度も伊之助の肩を叩く。すると伊之助の体がぶるぶると震えだしたかと思うと――
「はあ゙ーーん!?できてやるっつーーの、当然に!!舐めるんじゃねぇよ、乳もぎ取るぞコラ!」
しのぶは憤慨して声を荒げる伊之助を華麗に躱すと、今度は善逸の手を優しく握りしめながらにっこりと笑顔を浮かべた。
「頑張ってください善逸君。一番応援していますよ!」
その瞬間、善逸の体温が急激に上がり、顔に熱が籠る。こんな綺麗な人が自分を一番応援してくれている!それだけで彼の心は激しく燃え上がった。
「よーし!俺のことを一番に気にかけてくれているしのぶさんのためにも、俺はやるぜ!」
「俺もだぜ!絶対にできて見返してやる!!」
理由はともあれ二人はやる気を出し、さっそく練習に取りかかろうとする。すると突然、背後から汐が自分たちを呼び、話があると言った。
振り返った時に見た汐の顔は真剣そのもので、それは音にも表れている。善逸は思わず息をのみ、少し上ずった声で返事をした。
汐は少しだけ考えるように目を伏せた後、意を決して口を開いた。
「聞いてほしいの。あんた達に。あたしの、ワダツミの子の事を――」
汐の言葉に炭治郎の表情が変わり、善逸と伊之助は怪訝そうな顔で汐を見つめた。汐は一つ深呼吸をすると、ゆっくりと話し始めた。