第8章 慈しみと殺意の間<弐>
食事を終えた後、汐は鱗滝、炭治郎両名と改めて顔を合わせた。
「改めて名乗ろう。儂は鱗滝左近次。そしてこちらが、半年前からここで修行を積んでいる竈門炭治郎だ。もう知っているとは思うが、儂はお前の養父と同じく『育手』だ」
育手。それは文字通り剣士を育てる者たちのこと。山ほどの数がいて、それぞれの場所、それぞれのやり方で剣士を育てているのだ。
そして鬼殺の剣士たちが身を置く組織『鬼殺隊』へ入隊するには、『藤襲山』で行われる『最終選別』で生き残らなければならないのだ。
厳しい声色に汐は勿論、炭治郎も身を固くする。
「だが、二人が最終選別を受けていいか否かは儂が決める。まずはそこで生き残るための術を、お前たちに叩き込む」
それから二人の(地獄のような)修練が始まった。
まず初めに、山に慣れていない汐のために、鱗滝は山の基礎知識を叩き込む。歩き方から食べられるものの見分け方などのを一から教えた。
あまり頭を使うことがなかった汐に乗って、これは出鼻をくじかれる。だが、それも海の知識を覚えることが楽しかった時を思い出しながら、山の知識も覚えていった。
次に行ったのは、なんと炭治郎との組手である。二人は戸惑った。汐は素人相手に拳を振るっていいのか、炭治郎は女である汐に拳を振るっていいのか。
だが、鱗滝からは容赦はするなとお墨付きをいただいた。そしてその結果、汐は炭治郎を完膚なきまでに叩きのめしてしまった。
そんな汐を見て、鱗滝は少しやりすぎかもしれなかったと、僅かながら悔やんだ。