第62章 幕間その肆:我妻善逸の憂鬱
さらに翌日。
伊之助のイビキが響き渡る中善逸が目を覚ますと、そこに炭治郎の姿はない。まだ夜が明けたばかりだというのに、もう訓練に出ていると思うとすごいと思う反面自分自身が嫌になる。
努力することは苦手で、地味にコツコツやるのが一番しんどい善逸は、そんな自分に不甲斐なさをいつも感じていた。
すると突然、善逸の鎹雀のチュン太郎(本名うこぎ)が善逸の腕に止まった。善逸は彼に、炭治郎に教えてもらっているけれど全然できないことを漏らす。
彼に雀の言葉はわからないが、心なしか辛辣な言葉をかけられている気がする。
善逸は小さくため息をつくと、処方された薬を一気に煽った。舌が痺れるような強烈な苦みとえぐさが善逸の味覚を刺激する。
すると突如、眠っていたはずの伊之助が音もなく立ち上がった。心なしか彼の音に、決意が宿っているように思える。
「行くぞ、紋逸」
伊之助はそれだけを言うと、足早に部屋を出て行く。善逸もあわててその後を追った。
訓練場に行く前に厠から出てきた炭治郎と会い、そのまま訓練場に行くと既に汐が到着していた。彼女は二人の姿を見て嬉しそうに名前を呼ぶ。
その声に善逸は罪悪感を感じたが、そばにいたしのぶの存在を認知すると、途端に背筋が伸びた。
「おはようございます。訓練を行う前に、汐さんと炭治郎君が会得しようとしている【全集中・常中】について教えましょう。全集中の呼吸を四六時中やり続けることにより基礎体力が飛躍的に上がります」
しのぶの説明に善逸と伊之助は微妙な表情で顔を見合わせた。そんな彼らにしのぶは微笑み、やってみるように促す。
しかしその苛酷さは想像以上であり、善逸は大声で泣きごと言った。
そんな二人に炭治郎は励ましながらも、何とかコツを教えようとはするが、教え方が壊滅的に下手な彼の説明はもはや人の言語をほとんどなしていなかった。