第61章 幕間その肆:竈門炭治郎の溜息
「ばっばっ、ばばばばば・・・・!馬鹿あっ!!」
汐は顔を真っ赤にしながら炭治郎に向かって手を上げる。それを慌てて躱すと、彼女の身体は体勢を崩し今にもベッドから落ちそうだ。
「危ない!!」
炭治郎は咄嗟に汐の腕を掴むと思い切り引っ張った。だが、勢いがあまり、二人はそのままベッドに倒れこんだ。
「!!」
目を開けると、すぐ近くに汐の顔があった。吐息が掛かりそうなほどの近い距離で、炭治郎は初めて汐の顔をまじまじと見た。
海の底のような真っ青な美しい髪と、同じくらいに青い目。思ったよりもまつげは長く、唇や頬はよく熟れた果実のように赤かった。
今までずっと見てきたはずの汐の顔は、今まで見たことがない程艶やかで、炭治郎の胸をかき乱した。
が、不意に風が吹いて窓枠が音を立て、炭治郎のは我に返る。汐も我に返ったように目を見開くと、二人は慌てて距離をとった。
「そ、そろそろ戻るよ。善逸や伊之助も戻ってくると思うし」
「そ、そうね。それがいいわね、うん」
二人は目を合わせないまま立ち上がると、炭治郎はそのまま部屋を出て行こうとした。そんな彼の背中に、汐は声をかける。
「あ、あたし、明日から訓練に参加するから」
「えっ!?本当に!?」
「アオイに怒られるのは正直いやだけど、このまま負けっぱなしなのはもっと嫌だから」
汐の言葉に、炭治郎の胸の中に喜びが沸き上がってくるのを感じた。ゆるむ口元を隠すように、炭治郎は汐とあいさつを交わすと部屋を後にした。
しかし彼の足はその場から動かなかった。先ほどの事を思い出し、顔に一気に熱が籠る。
(汐ってあんなに・・・あんなに・・・)
思い出しただけで言いようのない衝動に襲われそうになった炭治郎は、収まらない鼓動に戸惑いながらも自室へ戻った。