第61章 幕間その肆:竈門炭治郎の溜息
「汐。中に入れてくれないか。きちんと顔を見て話がしたい」
炭治郎は真剣な声色で扉に向かってそう言うと、少し待ってから扉がゆっくりと開いた。そして数日振りにみた汐の顔は、心なしか疲れているように見えた。
そのまま二人でベッドに座ると、汐から不安の匂いがした。炭治郎は息を一つつくと、自分が気になっていたことを思い切って聞いてみた。
それは、あの時の汐の奇妙な感情。怒っているような悔しがっているような匂い。無意識に抱え込んでしまう癖がある汐に、炭治郎はまた何か悩んでいるのではないだろうかとずっと気になっていたのだ。
すると汐は、ぽつりぽつりと話し出した。あの夜に汐も炭治郎と瞑想をしようとしてたこと。その時に炭治郎がしのぶと二人で話しているのを見て胸に痛みを感じたこと。
それと似たような感覚を珠世といた時にも感じたこと。
それを聞いた炭治郎は、呆然と汐を見つめていた。男の炭治郎の眼からしても、あの二人はとても綺麗だと思った。そんな彼女たちが汐はうらやましく、あこがれていたのではないか。それならば、あの時珠世としのぶの名前が汐の口から出てきた理由に納得がいく。
それを指摘すると、汐は少し違うがそんなところだと答えた。しかし炭治郎はそれは無理だと思った。
珠世もしのぶも確かに綺麗だ。しかし、二人が同じかと言えばそうではない。二人は全く違う人だし、綺麗の度合いも全く違う。それは汐だって同じだと炭治郎は語った。
それに、汐は自分のことを卑下しているように言っているが、彼女の美しい姿を炭治郎は知っていた。
「柱合裁判の時、汐がお館様や柱の人たちの前で歌を歌っただろう?あの時の汐を見た時、目が離せなかったんだ。その、あまりにも綺麗すぎて・・・」
あの時。青い髪をなびかせながら歌を奏でる彼女に、炭治郎は目も心も釘付けになり、息をすることさえも忘れた。だから、あまり気にしなくてもいいんじゃないか。
炭治郎がそう言おうとしたその時だった。