第61章 幕間その肆:竈門炭治郎の溜息
汐に会いたい!会って話がしたい!それだけの思いで炭治郎は汐の元へ急ぎ、その扉を大きく開けた。が、その瞬間。
「ぎゃあああああ!!!!急に入ってくんな!!」
耳をつんざくような悲鳴を上げ、汐は枕を炭治郎の顔面に投げつける。その痛みに涙目になりながらも、炭治郎は手紙だったものを汐に見せ何が書いてあるのか尋ねようとした。
ところが汐はそれを見た瞬間、とんでもなく汚い高音で叫ぶと、炭治郎はなすすべもなく部屋から追い出された。
しかしここで引き下がるわけにはいかない。炭治郎は大きく息を吸うと扉の向こうにいる汐に声をかけた。
「なあ、汐」
「何よ!笑いたければ笑いなさいよ。あんたに謝りたくて手紙を書いたけれど、結局肝心なところで失敗するあたしを思い切り笑いなさいよ」
扉越しから聞こえてきた声に、炭治郎の身体が微かに震える。汐が自分とほぼ同じ気持ちだったことが嬉しかったのだ。
だから炭治郎はそんな彼女に、汐が部屋まで来てくれたことが嬉しかったと告げた。
「ごめん、汐。お前の言う通り、俺は無神経だった。匂いでわかっていても人の心の全てをわかるわけじゃない。誰にだって知られたくないことはあるのに、人の心の奥に土足で踏み込むような真似をしてしまった。本当にごめん!」
自分の嘘偽り無い気持ちを言葉にして伝えると、しばしの沈黙が辺りを包む。が、それから扉越しに汐の声が聞こえてきた。
「あたしの方こそごめん。あんたの話も聞かないで一方的に怒鳴るし、言葉遣いも悪いし。全部あんたの言う通りだった。あたしのせいであんたがどれだけ恥ずかしい思いをしているのか考えることができなくて、本当にごめん!」
汐の言葉に炭治郎の心が大きく揺れた。汐の口が悪いのは性格上仕方のないことだし、間違ったことは言っていないことを知っているから、まさか彼女から謝罪の言葉を聞くとは思わず炭治郎は慌てて口を開いた。
「いや、悪いのは俺だ」
「ううん、あたしよ」
「いいや、俺だ」
「あたしだってば!」
扉越しに交わされる不思議な謝罪合戦が少し続いた後、汐と炭治郎は同時に吹き出す。そしてどちらかともなく笑い出した。
何だか本当にくだらないことで悩んでいたような気がして、おかしくてたまらなかったのだ。