第61章 幕間その肆:竈門炭治郎の溜息
だが、炭治郎は自分の考えがいかに甘かったことを知ることになった。
まず、肝心な汐に全く会えていない。というのも、朝早く汐の部屋に何度か行ってみたのはいいが、いくら声をかけても返事はなく部屋にはいつも鍵がかかっている。
そして何より、ずっと部屋から出ていないのか汐の匂いが全くしないのだ。
もしかしたらと思い訓練場に行っても、汐の姿はなく炭治郎は重い心のまま訓練に挑み、そして敗北する日々か続いた。
しのぶに相談しようと考えてはみたが、何故かしのぶとも会えず、善逸に相談するも「痴話喧嘩」として片付けられてしまい、炭治郎は悶々とした時間を過ごした。
そしてある日の事。
炭治郎はいつものようにカナヲに敗北し、薬湯の悪臭を漂わせながら部屋に戻って来た。しかし、悪臭に混ざって違う匂いが炭治郎の鼻をかすめる。
(あれ?この匂いは・・・)
微かだが汐の匂いを感じ、炭治郎の胸が音を立てる。そして善逸に汐が来ていたのかを確認すると、彼は振り返りもせず「枕の近くを探せ」とだけ告げた。
その言葉の意味が分からず、炭治郎は怪訝な表情をするが言われたとおりに枕のそばを調べてみた。
するとそこに、朝はなかったはずの一通の手紙を見つけ手に取る。手紙からははっきりと汐の匂いを感じ、炭治郎はすぐさま封を開け中を見る。
だがそこに書かれていたのは、文字が滲み切って殆ど読めない手紙のようなものだった。
(な、なんだこれ?文字が滲んで読めないけど・・・汐が書いたのは間違いないよな)
しかしその代わりに残る汐の匂いは、刺々しい感情など一切ない、微かな不安と温かな感情。
(汐!)
炭治郎は手紙を握りしめると、すぐさま部屋を飛び出し汐の部屋に向かった。そんな彼を、善逸は呆れたような少しうれしそうな表情を浮かべ、眼を閉じた。