第61章 幕間その肆:竈門炭治郎の溜息
汐と喧嘩をした翌日。とうとう訓練場には炭治郎ただ一人だけになってしまい、アオイは激怒し三人娘も心配そうに炭治郎を見つめていた。
その所為か定かではないが、その後訓練ではいつもの半分以下の実力しか出せずアオイをイラつかせてしまい、これ以上の訓練は難しいと判断され部屋に戻されてしまった。
あの時の汐の敵意と怒りの匂いと、自分に向ける鋭い視線が目に焼き付いてしまい、それがさらに炭治郎の心を重くさせた。
陰鬱な表情で部屋に戻ると、目を覚ましていた禰豆子が炭治郎に駆け寄ってきた。炭治郎は無理やり笑顔を作りながら禰豆子の頭をなでたが、違和感を感じた彼女は不思議そうな表情で彼を見上げた。
炭治郎はそのままベッドに座ると、大きなため息をついて頭を抱えた。そんな彼を心配してか、禰豆子はそっと手を膝の上に置く。
「禰豆子・・・」
炭治郎はそのまま汐と些細なことで喧嘩をしてしまったことを話し出した。汐の様子が変だったから声を掛けたら怒られ、そのままかっとなって言い返してしまったこと。そして汐も訓練に来なくなってしまったこと。
なんであんなことを言ってしまったのかを全て話した。
すると禰豆子は、腕を引っ張りながら真剣な表情で炭治郎を見つめた。その姿を見て彼は、昔兄弟たちの喧嘩を仲裁していたことを思い出す。
――言いたいことはきちんと言わなければいけない。そして、悪いところがあればきちんと謝らなくてはいけない。
「汐と話をしてみるよ。兄ちゃん、頑張ってみる!」
炭治郎は決意を込めた表情で立ち上がると、禰豆子は嬉しそうに笑った。そんな彼らの音を秘かに聞いていた善逸は、なんとも言えない表情で自分の胸を抑えた。