第60章 兆し<肆>
「行けェ―ッ!負けるなーっ!!!」
訓練場に響く二つの足音に交じって、汐のよく通る声援が聞こえる。全身訓練に挑む炭治郎が、カナヲ相手に奮闘しているのだ。
(俺の身体は変わった!汐も全集中・常中を身に着けた!早く刀を振りたい!この手で、日輪刀を!!)
炭治郎は縦横無尽に動き回るカナヲをしっかりと目で追い、そしてその手で彼女の左腕をしっかりとつかんだ。
「やったぁー!!」
炭治郎の勝利に、汐は三人娘を抱きしめ飛び上がって喜んだ。
そして続いての反射訓練。炭治郎とカナヲの手が驚くほどの速さで動き、両者一歩も譲らない攻防戦だ。
(うおおお、気を緩めるな! いけるぞおおお!!)
「頑張れ炭治郎!あんたならできる!!絶対に大丈夫!!」
汐の声が響き渡り、炭治郎もそれにこたえるように必死で手を動かす。そして炭治郎がとった湯飲みがカナヲの手を振り切る。
(抜けた!!行けぇーー!!)
炭治郎はそのままカナヲに湯飲みを向ける。が、炭治郎の脳内から小さな理性が語り掛ける。
(この薬湯臭いよ。かけたら可哀想だよ)
「!!」
炭治郎は目を見開くが、腕を止めることはできない。しかしその代わりに、彼はカナヲの頭の上に薬湯の入った湯飲みを乗せた。