第59章 兆し<参>
そして翌日。
訓練場では二つのあわただしい足音が響き、汐とカナヲが舞うようにして動いている。汐の口からは全集中の呼吸の音が響き、彼女の体を動かす。
(負けたくない、負けたくない!もう絶対に負けたくない!!!)
汐の細胞全てが熱を持ち、体中を活性化させ逃げるカナヲに食らいつく。そしてついに――
汐の左手が、カナヲの左腕をしっかりとらえた。
(や、やったっ!!!)
汐の訓練を見ていた炭治郎と三人娘は、その快挙に思わず歓声を上げた。
そして次は反射訓練。始まりの合図と共に、二人の両手が動き出す。
(うぉおおおお!!!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!)
二人の両手が凄まじい速さで動き、互いに一歩も譲らない攻防戦だ。
「いい勝負です!頑張って!」
「行け―汐!頑張れ、頑張れ!!」
三人娘と炭治郎の応援が、汐の耳に届き、さらに身体を早く動かした。
(負けない!負けない!!負けない!!!これ以上、あいつの前で無様な姿は見せられない!!!)
その気迫が功を奏したのか、汐の左手がとった湯飲みがカナヲの防御を振り切った。そしてそのまま汐はカナヲに湯飲みを向ける。
カナヲは薬湯をかけられることを危惧し、思わず目を閉じようとした。が、汐はカナヲにかけようとした湯飲みを寸前で止めた。
薬湯の雫が一滴、カナヲの鼻の頭に零れ落ちる。驚いて目を見開くカナヲに、汐は息を乱しながら視線を向けていた。