第59章 兆し<参>
「先ほどは申し訳ない。ですがまぁ、形はどうあれ、鋼鐵塚さんも鉄火場も人一倍刀を愛していらっしゃる。あの二人のような人は刀鍛冶の里でもなかなかいません」
「そうでしょうね」
(こんなのが何人もいたら、命がいくつあっても足りないわよ)
未だに怒りが収まらない鋼鐵塚と、まだ鼻を啜る音を立てる鉄火場の二人を見て、汐と炭治郎は何とも言えない表情を浮かべた。
その刀匠は鉄穴森(かなもり)と名乗り、伊之助の刀を打ったと告げた。
「戦いのお役に立てれば幸いですが・・・」
鉄穴森は穏やかな口調で縁側に座る伊之助の背中を見ながら言った。
伊之助の二本の刀は美しい藍鼠色へと変化し、鉄穴森をうならせた。
「あぁ綺麗ですね、藍鼠色が鈍く光る。渋い色だ。刀らしいいい色だ」
「よかったな。伊之助の刀は刃こぼれが酷かったから・・・」
未だに怒りが収まらない鋼鐵塚にボカボカと叩かれながらも、炭治郎の顔には笑みが浮かんだ。
「今度は大事に使わないとね。鉄穴森さんはともかく、怒らせたらやばそうなのが二人いるし」
「こら汐。滅多なことを言うもんじゃない」
汐の言葉を炭治郎が窘め、再び震えだす鉄火場を鉄穴森が慌ててなだめた。
「握り心地はどうでしょうか?実は私、二刀流の方に刀を作るのが初めてでして・・・」
しかし伊之助は鉄穴森の言葉には答えず、すっと立ち上がるとそのまま庭へ歩き出した。
「伊之助殿?」
怪訝そうに首をかしげる鉄穴森をしり目に、伊之助はしゃがみ込むと落ちていた石を拾っては投げるのを繰り返す。
その行動に彼だけでなく汐達も顔を見合わせ、訝しんだ。
やがて伊之助は、ちょうどいい大きさの石を手に取ると――
――あろうことかその石を、打たれたばかりの刀の刃に叩きつけた。