第59章 兆し<参>
「は・・はがねづか・・・さん?」
炭治郎が震える声で尋ねると、鋼鐵塚の口から地を這うような低く恐ろしい声が聞こえてきた。
「よくも折ったな、俺の刀を。よくもよくもぉ!!」
「すみません!!でも、本当にあの、俺も本当に死にそうだったし、相手も凄く強くて・・・」
烈火のごとく怒る鋼鐵塚に、炭治郎は必死で謝り倒すが、彼は炭治郎の話を全て否定し声を荒げた。
「違うな、関係あるもんか。お前が悪い!!全部お前のせい!!お前が貧弱だから刀が折れたんだ!そうじゃなきゃ俺の刀が折れるもんか!!」
――殺してやるーーーッ!!!
そのまま鋼鐵塚は包丁を振り回し、凄まじい速さで炭治郎を追い回す。
そんな二人を、汐は青ざめた表情で見ていた。
「あの、鉄火場さん。あれは放っておいていいの?」
そう尋ねると、南部風鈴の刀匠、鉄火場焔はその光景を一瞥し口を開いた。
「あれは流石に自分でも庇い切れませんし、ああなってしまった鋼鐵塚は放っておくのが一番です。竈門炭治郎殿には気の毒ですが」
彼はそう言うと、持っていた大きなものを汐に手渡した。
「こちらが打ち直した日輪刀です。どうぞ」
「あ、ありがとう」
鋼鐵塚とは異なり、鉄火場の声は落ち着いている。刀を折ってしまった罪悪感を感じていた汐は、少しだけほっとした。
だが刀を受け取ろうとした瞬間、鉄火場の体がぶるぶるを振るえた。
「折られてしまった。私の打った刀が・・・刀がぁ・・・」
「え?鉄火場さん?ちょっと?」
「うわあああああん!!!あぁんまりだーーーァ!!私の刀がァー!!」
鉄火場はそのまましゃがみ込み、まるで子供のように泣きわめいた。とてもいい年の大人がするような行動ではない。
汐はどうしたらいいかわからず呆然としていた。
すると、
「ほら鉄火場。依頼主の前でそのようなことをするものじゃない。鋼鐵塚さんもその辺にしたらどうですか?」
傍にいた三人目の刀匠が、二人をなだめる言葉をかける。それからゆったりした口調で屋敷に入るように促した。