第59章 兆し<参>
ワダツミの子。人や鬼に影響を与える声を持つ、青髪の女性。
かつては汐以外にも何人か存在し、その特殊な力故にある時は崇められ、ある時は迫害され、ある時は女故に欲望のはけ口にされ、力を悪用しようとする者たちもいたこと。
そのためワダツミの子の本能は、人の目から自信を逸らす特性を生み出し、自分が男に間違われるのはそのためだと汐は語った。
ワダツミの子の大まかを知っていた炭治郎も、その特性については初めて聞いたため、彼は悲しそうな顔で汐を見つめた。
その話が本当なら、汐の前のワダツミの子たちは今まで相当にひどい目に遭ってきたことになる。そう思うと、彼の心は酷く痛んだ。
一方、ワダツミの子という言葉自体初めて聞いた善逸と伊之助は、その突拍子もない話に呆然と汐を見つめていた。
その眼には驚きと同様が見て取れる。(伊之助は被り物をしているためわからなかったが)
「これがあたしが今知っているワダツミの子の話。信じられないだろうし気味悪いだろうけれど、嘘じゃない。あたしの声の事、あんたたちにも知ってもらいたかったの」
汐は真剣なまなざしで善逸達を見据えた。自分の秘密も、自分の今の気持ちも、すべて口にした。
微かに震える手を握りしめながら、汐は善逸達の反応を待った。
善逸は視線を泳がせ俯く。いきなりこんなことを言われて動揺するのは当然だろうと汐は唇をかみしめた。
だが――
「やっぱり、そうなんじゃないかって思ってた」
「・・・え?」
善逸の思わぬ言葉に、汐は驚いた表情で善逸を見つめた。