第58章 兆し<弐>
「まあまあ、これは基本の技というか初歩的な技術なので出来て当然ですけれども、会得するには相当な努力が必要ですよね」
しのぶはそう言うと、伊之助の下に歩み寄りその肩に手を置いた。
「まぁ、できて当然ですけれども。伊之助君なら簡単かと思っていたのですが、出来ないんですかぁ?できて当然ですけれど、仕方ないです。できないなら。しょうがない、しょうがない」
彼女はそう言って何度も伊之助の肩を叩く。すると伊之助の体がぶるぶると震えだしたかと思うと――
「はあ゙ーーん!?できてやるっつーーの、当然に!!舐めるんじゃねぇよ、乳もぎ取るぞコラ!」
しのぶは憤慨して声を荒げる伊之助を華麗に躱すと、今度は善逸の手を優しく握りしめながらにっこりと笑顔を浮かべた。
「頑張ってください善逸君。一番応援していますよ!」
この言葉に善逸の顔が真っ赤に染まったかと思うと――、頭と耳から湯気を噴き出しながらしっかりと返事をした。
そんな彼らを眺めながら、汐は(なるほど、あれが魔性の女って奴か)と一人感心していた。しかしそんな汐の背後に、しのぶは音を立てずに回り込むと
「汐さんも頑張ってくださいね。彼が見ていますよ」と、小さな声で告げた。
その瞬間、汐の頬が赤く染まる。そしてそんな彼女から、炭治郎は以前に感じた若い果実のような不思議な匂いを感じた。