第58章 兆し<弐>
そしてある日の事。
訓練場に向かい合って立つのは汐とカナヲの二人。その傍らでは炭治郎と三人娘が固唾をのんで見守っていた。
緊迫した雰囲気の中、全身訓練が始まった。
「頑張れ!!頑張れ!!」
炭治郎と三人娘が応援する中、汐は必死でカナヲを追う。相変わらず彼女の動きは素早く、少しも隙が無い。
しかし汐の動きもそれに負けじと食らいつき、カナヲの動きについていく。そんな汐にカナヲの表情が僅かに変わった。
(見える、追える!ついていけている!!)
今までは目で追うのもやっとだったカナヲの動きに、汐もついていけている。そしてその手を掴もうと手を伸ばしたときだった。
床に落ちていた汗で足を滑らせ、汐はそのまま顔面から派手に転ぶ。凄まじい音が響き、埃が煙のように上がった。
汐を見てカナヲは思わず掴まれそうになった自分の手を見つめる。汐はあおむけに倒れながら、(あと少しだったのに!!)と悔しそうに顔をゆがめた。
そんな汐を見て、炭治郎は俄然やる気が出てきた。汐が頑張っている以上、自分も頑張らないわけにはいかない。
そのせいか、次に炭治郎がカナヲに挑むと、やはり汐同様カナヲにしっかりとついていけた。結局彼女を捕まえることはできなかったが、炭治郎も確かな手ごたえを感じた。
そして日が落ち、今日の訓練を終えた二人はアオイに挨拶をしてた。するとアオイは何故か顔をしかめてそっぽを向いた。二人は何事かと思い振り返ると、扉からこちらの様子をうかがっている善逸と伊之助と目が合った。二人はそれに気が付くと逃げるように去って行ってしまった。
呆れた顔をする汐と心配そうな炭治郎に、アオイは「私は知りませんよ」とだけ言った。