第7章 慈しみと殺意の間<壱>
「た、ただいま、もどり、ました」
汐の口からはかすれた声が途切れ途切れにこぼれる。そんな彼女に、鱗滝はやさしい声色でこういった。
「お前を認めよう、大海原汐」
その言葉が耳に入った瞬間、汐の視界は再び闇に包まれていくのだった。
「あ、危ない!!」
突然ぐらりと傾いた汐の体を、そばにいた少年がとっさに支える。
「大丈夫ですか!?」
あわてた様子で声をかけると、汐の口元からは規則正しい寝息が聞こえた。
「儂は食事の支度をする。炭治郎、お前はその子を介抱してやれ」
「は、はい」
炭治郎と呼ばれた少年は返事をすると、ぐったりしたままの汐を布団に寝かせた。
「この人が、鱗滝さんの言っていた知り合いの弟子・・・。青い髪の色なんて珍しいな」
炭治郎の眼に入ったのは、汐の真っ青な髪の色だった。その色に目を奪われそうになるが、あわてて首を振り本来の目的を思い出す。
(少し血の匂いがする。まずは傷の手当てをしないと・・・)
一番目立つひざのけがを、炭治郎は丁寧に手当てをしていく。だが、ここで彼はふと妙なことに気づいた。
(服は少し汚れているけれど、ひざの傷の他は殆ど見当たらない。あの山にはたくさんの罠があったはずなのに、まさか、あの罠を潜り抜けてきたのか?)
彼自身も半年ほど前、同じように山の中に置き去りにされ無数の罠をかいくぐりながらもたどり着いた経験があった。その時は殆どの罠にかかり、全身傷だらけで何とか戻ってきたものだった。
だとしたら、目の前の汐は相当な身体能力を持っているだろう。炭治郎は思わず息をのんだ。