第58章 兆し<弐>
翌日。
訓練場にやってきた汐は、まず長い間訓練に来ていなかったことをアオイをはじめ皆に謝罪した。
アオイはそんな汐の姿を一瞥すると、ぶっきらぼうに「謝る暇があるなら少しでも時間を有効に使ったらどうですか」と答えた。
いつもなら怒り出す汐もその言葉を真摯に受け止め、大人しく訓練を開始する。
その変わりようにアオイは勿論炭治郎も少なからず驚いたが、何にせよまた一緒に訓練を行えることに彼はうれしさをかみしめていた。
だが、汐が戻って来たことを喜んだのは炭治郎だけではなかった。彼らをずっと見てきた三人娘だ。
彼女たちは汐が訓練に来なくなってから明らかに憔悴した炭治郎をずっと見ていた。そして同じく苦しんでいる汐をずっと心配していたからだ。
だからこそ、二人の仲が元通りになったことを三人は心の底から喜んだ。
しかし彼女たちは知らなかった。
二人の距離が、喧嘩をする前よりも近くなっていることに。