第57章 兆し<壱>
「ひょっとして汐もしのぶさんや珠世さんみたいになりたいって思ってたのか?」
「・・・ちょっと違うけど、まあそんなところかも」
自嘲的な笑みをこぼす汐に、炭治郎は首を横に振った。
「そんなの無理に決まってるじゃないか」
「はあ!?それどういう意味よ!?」
「落ち着け、悪い意味じゃない。だって汐はしのぶさんや珠世さんじゃないから、二人にはなれないし、汐は汐だ。それに・・・」
「それに?」
炭治郎の言葉に汐は首をかしげながら見つめると、彼は少しだけ頬を染めながら語りだした。
「柱合裁判の時、汐がお館様や柱の人たちの前で歌を歌っただろう?あの時の汐を見た時、目が離せなかったんだ。その、あまりにも綺麗すぎて・・・」
流石に神様みたいだったとは言えずに口ごもる炭治郎を見て、汐の顔に一気に熱が籠った。
「あの二人は確かに綺麗だけれど、汐だって負けないくらい綺麗だったんだ。だからそんな風に考えなくても―――」
「ばっばっ、ばばばばば・・・・!馬鹿あっ!!」
炭治郎の言葉を強制的に遮って、汐は左手を思い切り振り上げる。だが、振り下ろしたときに体勢を崩し、体がぐらりと傾いた。
「わっ、わわっ!!」
「危ない!!」
炭治郎は咄嗟に汐の腕を掴むと思い切り引っ張った。だが、強く引きすぎたせいかそのまま勢いあまって二人は同時にベッドに倒れこんだ。