第57章 兆し<壱>
しばらくして訓練から戻ってきた炭治郎は、敗北した証拠として薬湯の臭いを漂わせながら戻って来た。だが、悪臭に交じって違う匂いが彼の鼻腔をかすめる。
(あれ?この匂いは・・・)
微かだが汐の匂いがすることに気づいた炭治郎の胸が音を立てた。あれからずっと彼女と顔を合わせていないせいか、酷く懐かしいように感じる。
「善逸。汐がここに来てたのか?」
炭治郎が横になっている善逸の背中にそう尋ねると、善逸は背中を向けたまま頷いた。
「お前に見てほしいものがあるってよ。枕の近く探してみろよ」
それっきり善逸は黙り込み、炭治郎は言われた通り枕の周辺を調べてみた。すると枕の下に一通の手紙を見つける。
その手紙からはっきりと汐の匂いを感じた炭治郎は、すぐさま封を開けて中を見る。そしてその手紙を眼にした瞬間、大きく目を見開くとすぐさま部屋を飛び出していった。
(ええええ!?速ッ!!)
その驚くべき行動の速さに善逸は驚愕し、手紙を見た瞬間に変わった炭治郎の音に腹を立てつつも口元に笑みを浮かべた。