第56章 迷走<肆>
(やっぱりあたしって馬鹿だなあ・・・。こんな心も綺麗な人に敵うわけないじゃないの。炭治郎がデレデレするのも当然なのに)
少し視線を落とす汐に、しのぶは目を見開くと少し困ったような表情を浮かべた。そして、
「なほが戻ってきたら、私が手紙の書き方を教えましょうか?」
「え!?しのぶさんが!?」
驚く汐に、しのぶは頷き小さな声で「私にも少しばかり責任はありますしね」と呟いた。
その声は汐には聞こえなかったが、しのぶが自分の為に時間を割いてくれることに汐は心から感謝した。
そしてその日から、汐は手紙の書き方をしのぶにみっちりと指導を受け、思ったよりも難しかった手紙の書き方に悪戦苦闘する。
しかしそれでも、炭治郎に自分の気持ちを伝えたい。その思いだけが汐の筆を動かした。
そしてその日から二日後。
「で、出来た!!」
手を墨で真っ黒にしながら、汐は書きあげた手紙を高々と上げた。
部屋中には墨の匂いが充満し、あちこちには書き損じた手紙が散らばり、何度も推敲したことがうかがえる。
しのぶは書きあげた手紙を読むと、満足そうにうなずいた。
「これならば汐さんの伝えたいことが伝わると思いますよ」
その言葉が合格を意味することを悟った汐の顔に、満面の笑みが浮かぶ。それを見た時、しのぶは甘露寺が継子に誘った理由が分かった気がした。
「さて、あとはこの手紙をどうやって炭治郎君に読ませることですが――」
「それはあたしがちゃんと考える。元はと言えばあたしのせいでああなっちゃったんだから、それぐらいはあたしがするわ」
汐が力強くそう言うと、しのぶは「そうですか」と安心したよう返す。すると汐はそんな彼女をじっと見つめ口を開いた。