第55章 迷走<参>
「私あなたに用があって来たのに、しのぶちゃんに聞いて部屋に行ってみたら誰もいないんだもの。それに、あなたがすごく落ち込んでるって聞いていてもたってもいられなくなって捜しに来たら・・・。お願い、せっかく助かった命を粗末にするのはやめて!」
甘露寺はそう言って涙目で汐を見つめる。それを見て汐は、甘露寺が自分が入水をしているのだと勘違いしているということに気が付いた。
「え!?ち、違うわよ!あたしは何も死にたくてここに来たわけじゃない。あたしはああやって嫌なことがあると水に潜りたくなる癖があるの」
汐がそのことを滾々と説明すると、甘露寺の顔がみるみるうちに赤くなっていく。そして自分の勘違いだと気づくと、まるで子供のように大声をあげて泣いた。
「よかったああ!!せっかく見つけた私の運命の子なのに、死んじゃったらどうしようって怖くて!でも、でも、本当に良かったああ!!」
そう言って泣きじゃくる甘露寺に、今度は汐が手ぬぐいを渡す。甘露寺はそれを受け取ると、謝りながら涙を拭いた。
(ん?ちょっと待って?この人今さっき何て言った?)
甘露寺を眺めながら、汐は先程彼女が言っていた言葉を思い出していた。確か、運命の子がどうのこうの言っていたような・・・
「あ、あの。甘露寺さん、だったっけ?あたしに用があるって言ってたけど、いったい何の用なの?」
汐がそう尋ねると、甘露寺は思い出したように顔を上げると、少し頬を染めながら汐に向き合った。
「そう。私があなたに会いに来た理由はね。あなたにお誘いをしに来たの」
言葉の意味が分からず怪訝な顔をする汐に、甘露寺はにっこりと笑ってそっと口を開いた。
――私の継子にならない?大海原汐ちゃん。